中学受験を目指すにあたり、自分が選ぶべき学校がどこかわからずにいる受験生も多いことでしょう。この記事では、女子が受ける私立の最難関中学校や、中学受験の最新事情を紹介していきます。
女子教育のあり方は変遷してきた
女子の志望校を考える上で、最近の教育のトレンドを知っておくことは大切です。女子教育のあり方は時代に合わせて変化してきました。たとえば、女子御三家の桜蔭・女子学院・雙葉のうち、桜蔭と女子学院は「自立した女性の育成」を掲げています。「自立」は今の時代を象徴するキーワードで、似たような理念を掲げる学校は多いです。ひと昔前には「良妻賢母の育成」を謳う学校が多かった時代もありましたが、今はほとんどありません。
ただし、類似する理念を掲げていても、学校ごとに教育内容はガラリと違います。グローバルに活躍できるよう英語力や留学経験に力を入れる学校、芸術を学ぶ環境を整えている学校、文系理系の両方に力を入れる学校など展開はさまざまです。
共学校は女子のほうが偏差値が高い傾向にある
女子の進学先としては女子校と共学校のふたつの選択肢があります。共学校は女子のほうが偏差値が高い傾向にあるのをご存じでしょうか。以下、詳しく見ていきます。
共学校における男女の偏差値差はどのぐらい?
2021年、都立高校入試の男女の偏差値差が、ニュースで取り上げられ、社会問題となりました。八割の学校で女子の合格ラインが高く設定され、最大243点差があるというのですから、特に女子のいる家庭にとっては頭の痛い問題でした。都立高校の男女別定員は問題視され、2024年度入試から廃止されました。
実は、この問題は都立高校だけに留まりません。中学受験においても、女子の合格基準は高めに設定されている学校が多いです。2024年の四谷大塚の偏差値を見ると、首都圏の学校において男女の偏差値差が最も顕著なのは、お茶の水女子大附属です。偏差値差は18。ただし、これは高等学校に男子が進学できない特殊な学校であるためです。
一般的な学校で偏差値差が顕著な事例としては、青山学院の偏差値差6、慶應中等部の偏差値差5、成蹊の偏差値差5、早稲田実業の偏差値差4、筑波大附属の偏差値差4あたりでしょうか。全体的に見ると偏差値差が1~3のケースが多いです。男子のほうが高いケースもまれにありますが、ごくごく一部と言えます。
合不合判定テストは男女別で偏差値が出る
四谷大塚の合不合判定テストは、その精度の高さから多くの受験生が受けています。合不合判定テストの偏差値は男女別で出るのですが、同じ点数だと女子の偏差値のほうが1~2程度高めに出る傾向にあります。
合不合判定テストでは、トップレベルは男子が多めで、上位層と中間層に女子が固まり、下位は少し男子が多めという分布になりやすいです。もちろん、これはあくまで合不合判定テストに限った傾向であり、男女の学力は、年齢やその国のジェンダー観、教育方針に大きく左右されます。
中学受験に限って言えば、偏差値が1~2程度女子のほうが高くても、合格点の差はほぼないのが現状です。しかし、先ほど挙げたように偏差値が男女で大きく異なる学校も少なくありません。3以上偏差値差があると、女子のほうが受験において不利になってきます。
女子のほうが不利な学校にはどういう事情があるの?
東京都立中学高等学校協会が2020年度に調査したところによると、東京都にある私立中学校187校(休校含む)で、特別支援学校と休校を除くと182校です。内訳は、共学校86校、男子校30校、女子校66校です。つまり、女子のほうが進学先の選択肢は多くあります。
しかし、選択肢が多いのは有難いにしても、入学できればどこでもよいなんて受験生はまずいません。できるなら人気校に入りたいと考えるのは当然です。その人気校の中で、少なからず女子の定員を減らしている学校や、偏差値の高い学校があります。
2024年度中学入試の状況をいくつか紹介します。青山学院の合格最低点は男子167点、女子185点。入試実質倍率は男子2.9倍、女子5.0倍です。また、同校は男女あわせて140名の定員ですが、慶應義塾中等部では男子120名、女子約50名と定員自体女子のほうが少ないです。定員の男女比を公表していなくても、実質的な枠が設けられていて、女子が少ない学校もあります。
女子に不利な条件を課す背景はさまざまです。点数でとると女子が多くなると主張する学校もあれば、内部進学の生徒の枠をキープするためというケースもあります。不利になりやすい傾向は人気共学校によく見られるため、優秀な女子生徒ほど苦労しがちです。共学を目指す家庭は事前に昨年度の合格点や男女比を調べておくとよいでしょう。
女子が受けられる難関レベルの中学校。偏差値や特徴は
女子が受けられる難関レベルの中学校にはどんな学校があるのでしょう。
高偏差値の中学校を知っておこう
四谷大塚全国中学入試偏差値一覧に基づいて、偏差値65以上の首都圏の学校に絞って紹介します。カッコ内は偏差値です。
女子校
桜蔭中学校(71)・豊島岡女子学園中学校(70)・女子学院中学校(69)・雙葉中学校(67)・洗足学園中学校(66)・浦和明の星女子中学校(65)・鷗友学園女子中学校(65)・フェリス女学院中学校(64)
共学
渋谷教育学園幕張中学校(72)・渋谷教育学園渋谷中学校(71)・慶應義塾中等部(70)・筑波大学附属中学校(70)・東京都立小石川中等教育学校(69)・市川中学校(69)・慶應義塾湘南藤沢中等部(68)・早稲田実業学校中等部(68)・青山学院中等部(65)・千葉県立千葉中学校(65)・東京都立武蔵高等学校附属中学校(65)・お茶の水女子大学附属中学校(65)・広尾学園中学校(65)・横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校(64)
理系に力を入れる学校が増えている
少し前、「リケジョ」という言葉がメディアに取り上げられたように、世間にはいまだ「一般的な女子は文系」という思い込みが根強くあります。たしかに、四谷大塚の合不合判定テストでも、国語は女子のほうの平均点が高いです。
しかし、中学受験においては理系に力を入れる学校が増えています。一番有名なのは、豊島岡女子学園で、生徒の四分の三が理系に進学しています。ほかにも理系に力を入れている学校としては、日本女子大学附属や光塩女子学院、普連土学園や東京女学館などが挙げられます。文理コースの比率が半々になっている学校も増加傾向にあります。
女子の最難関として挙げられる御三家
女子の最難関レベルといえば、なんといっても女子の御三家が有名です。以下紹介します。
女子の御三家はいずれも東京
女子の御三家は東京の学校ばかりです。そのため、「関東の御三家」「東京の御三家」と呼ばれることもあります。いずれも有名大学への合格実績が高く、人気を集めている学校です。東京大学をはじめとするトップ大学を狙っている女子ならば、誰もが憧れるのではないでしょうか。
女子の御三家はそれぞれ特徴がある
女子の御三家とひと口に言っても、学校ごとにカラーは大きく異なります。ここでは各学校を簡単に紹介します。
桜蔭
建学の精神は「礼と学び」であり、礼儀作法の授業で有名です。進学率よりも、学問への興味・関心を育てることに重きを置いています。高校から入学することはできないため、入りたいのであれば中学受験で合格する必要があります。
女子学院
プロテスタントのミッションスクールでトップ校では珍しいことに、週五日制を採用しています。キリスト教精神に基づく教育が行われる一方で、校風は自由です。制服もありませんし、校則も緩やかで制限はほとんどありません。生徒の自主性に重きを置いているのです。
雙葉
漢字が難しいため、読み方に迷う人もいるかもしれません。「ふたば」と読み、幼稚園から高校まであるカトリック系の女子校です。世間では「お嬢様女子校」と形容されることもあります。しかし、学内には自主性を重んじる子が多いです。語学に力を入れていて英語教育はもちろん、中学三年生からはフランス語教育が必修となります。
東大以外にも難関大学や医学部へ多数進学
桜蔭の東大合格者数は全国的に高い水準にあり、御三家の中でも抜きんでています。なお東大合格率の高さは、桜蔭・女子学院・雙葉の順番です。三校とも、東大だけではなく難関大学や医学部への合格者を多数出していて、優秀な進学実績をあげている学校です。自分のなりたい将来像がはっきりしていて、そのためには難関大学や医学部に行く必要がある子供にとっては、求める教育を受けられる環境が整っています。将来がはっきりしない子供にとっても、各校の個性あるカリキュラムはそれだけで魅力的なことでしょう。
女子の新御三家も
女子の「新」御三家と呼ばれ、新たに優秀な学校として名をあげている学校があります。豊島岡女子学園・鷗友学園女子・吉祥女子の三校です。特に豊島岡女子学園は女子の御三家の雙葉よりも東大進学率が高いです。
東京以外の御三家って?
神奈川にも女子の御三家と呼ばれる学校があります。フェリス女学院、横浜雙葉、横浜共立の三校です。フェリス女学院と横浜共立はプロテスタント、横浜雙葉はカトリックで、いずれもキリスト教系の学校といえます。
神奈川では、この女子の御三家以外に、アメリカの大学への進学を重視する洗足学園が、グンと存在感を増しつつあります。2024年度は東大への進学人数も15人を達成し、6人のフェリス女学院を大きく上回っています。洗足学園はフェリス女学院と併願する家庭が多いです。
また、湘南女子御三家と呼ばれる三校もあります。鎌倉女学院、湘南白百合、清泉女学院です。入りやすいわりに、進学実績がよいのが共通する特徴です。
中学受験は女子校と共学、どちらを選ぶべき?
女子校に行くべきか共学に行くべきか、迷っている家庭も多いことでしょう。特に首都圏では、優秀な女子校・共学校どちらも充実しています。女子校のメリットは多感な時期に性差による抑圧を感じない環境で学びを深められることです。共学校のメリットは、男女ともにいる環境で学びを深められることです。つまり、長所と短所は裏表。子供自身の意見を聞きながら、親の考えを整理する必要があります。
それに、女子校か共学校だけではなく、学校ごとの教育方針も重要です。まずは広く学校の情報を集めてみるのがよいでしょう。ホームページやパンフレットのチェックはもちろん、現役生の話を聞いたり、学校説明会に足を運んだりしてみることをおすすめします。
関西や東海では優秀な女子校の数は限られています。たとえば、東海地方の場合、成績優秀な女子が中学受験を考えれば、第一志望は女子校の南山女子で、第二志望は共学校の滝という組み合わせが一般的です。南山女子に匹敵するような女子校はほかにありません。つまり偏差値だけでほぼ志望校が決まってしまいます。公立志向の強い地域であるため、選択できるほど受験できる中学校がないのです。
その点、首都圏であれば、女子校にしろ共学校にしろ、校風やカリキュラムで選ぶ余地がたくさんあります。女子校か共学校かは重要な選択ですし、学校ごとの校風やカリキュラムも事前に吟味してから選びたいところです。子供とよく話し合いましょう。
偏差値は志望校選びの判断材料のひとつでしかない
子供を受験させる理由は家庭によって異なります。「東京大学に進学させたい」と早いうちから考えている家庭もあれば、「医学部を目指すため」という家庭もあります。先々のことはわからなくても、「早い段階でよい教育環境を用意してあげたい」と考える家庭は多いですし、「一貫教育を受ければ高校受験を避けられる」との言葉もよく耳にします。
大切なのは、偏差値だけにとらわれず、家庭の目的に合った学校を選ぶことです。たしかに、偏差値の高い学校は魅力的な要素がたくさんあるからこそ、高い人気を誇っています。女子の御三家はその代表格ともいえるでしょう。それでも、学校のカラーに子供に合うかどうかは別問題なので、情報を把握しておくことをおすすめします。
理系に力を入れる学校もあれば、語学に力を入れる学校もあります。生徒の自主性を重んじる学校もあれば、管理が厳しい学校もあります。わが子に合う学校とはどんな学校かを考えてみるとよいでしょう。塾や家庭教師も相談に乗ってくれるはずです。
共学校を受験する場合は、女子の偏差値が高く設定されている学校も少なからずあります。どう対策していくかを考えておきましょう。時代にあわせて、中学校の評価はめまぐるしく変わっています。親の時代のイメージにとらわれず、広く検討していきましょう。