いよいよ中学受験も本番直前です。親子ともども気合が入る時期ではないでしょうか。中学受験対策は首都圏であれば小学3年生の2月頃から着手する家庭が多く、実に長きにわたります。そのたゆみなき努力の果てに陥りがちなのが、燃え尽き症候群です。この記事では中学受験と燃え尽き症候群の関係について紹介します。
そもそも燃え尽き症候群ってなに?
燃え尽き症候群とは、英語で「バーンアウト(Burnout)」とも言われ、懸命に努力した人が思うような結果を得られなかったときに、徒労感や虚無感に打ちのめされ意欲をなくしてしまう症状を指します。過度の緊張状態にあるような、ストレスの多い環境で起こりがちです。
合格してもしなくても燃え尽き症候群になる子供
不合格者だけではなく合格者もまた、燃え尽き症候群に陥る危険性があります。以下、理由を見ていきましょう。
入学自体を目標にするべきではない
「猛勉強の末に落ちてしまって燃え尽き症候群に陥る」というのは、ある意味でわかりやすい構図です。これまで目標に向けて努力し続けてきたのにそれが叶わなかったわけですから、心が折れてしまうのも無理はないでしょう。しかし、実際には合否を問わず燃え尽き症候群の危険性はあります。では、なぜ合格したにもかかわらず、燃え尽き症候群になってしまうのでしょうか。
背景には、いくつかの理由が挙げられます。まず、入学自体が目標になりすぎて、そのあとの学校生活を設計できていない家庭が多いことです。中学受験をする家庭は、どうしても「合格がゴール」だと思い込んでしまう傾向にあります。しかし、実際には入学できてからが本番です。新生活に向けてスタートダッシュを切るにあたって、気持ちの準備は大切なこと。準備ができていないと、すべて終わったような気がして燃え尽きてしまいかねません。
トップクラスを維持するのが困難
二点目に、これまで成績トップクラスであることをアイデンティティにしていた子供たちが、学内でよい順位をとれないという問題があります。周囲は皆、自分と同レベルの子供たちばかりです。入学時点から大きく実力差があった小学校時代とはわけが違います。その中で、よい成績を維持するのは並大抵のことではありません。これまでトップクラスの実力を自らを支える自信としてきた子供も多いはずです。それにもかかわらず、自分が勉強についていけないというのはなかなか受け入れられるものではありません。
加えて、難関私立中学では、高い難易度のカリキュラムをハイペースにこなす必要があります。難関私立中学に合格できるのは、当然勉強慣れした子供たちですが、あまりの速さに苦戦を強いられるケースは少なくありません。
私立中学の多くは、公立中学に比べて勉強のペースが圧倒的に速いです。多くの学校は中学2年生までに3年生までの内容を終わらせます。優秀な学校ほど、そのペースは速くなる傾向にあり、振り落とされる子供も出やすくなるのです。さらに速いだけならまだしも、公立とは比べものにならないレベルの問題をこなさなければいけません。
「身に着けた学習習慣をしっかりと維持して、難しい内容をハイスピードに、けれど着実にこなしていく」というのは簡単なことではありません。入学早々に勉強についていけないなんて事態は珍しくないのです。こうした事態に陥ると、大きな挫折感につながります。
燃え尽き症候群になるのは大人も同じ
よく中学受験は「親の受験」とも言われます。実際、中学受験に向けて子供をサポートするために費やす親の労力は、半端なものではありません。送迎、弁当、宿題チェック、プリント管理、メンタル管理。やるべきことはたくさんあります。
そのため、当の子供以上に熱が入ってしまう親もいます。合格したのについていけない子供を見て打ちのめされてしまったり、残念ながら不合格となってしまい立ち直れなかったりということは少なくありません。
中学受験を終えて燃え尽き症候群を回避するために
中学受験を終えて燃え尽き症候群に陥らないためにはどうすればよいのでしょうか。
第一志望に不合格!ショックから早めに立ち直ろう
第一志望に不合格だったことで、親子ともに大きなショックを受けてしまうのは当然です。しかし、親が落ち込んでいる姿を子供に長く見せていると、子供は自尊心を傷つけられます。気持ちを切り替えるためにも、親子で受かった学校について調べてみましょう。どんな部活があるのか、どんなカリキュラムが用意されているのかなど、入学後の生活について具体的なビジョンを共有してみてください。
受験前にその学校の校風について認識しておく
たとえば、ひと口に私立中学と言っても自主自立を重んじる学校もあれば、詰めこみ教育で管理型の学校もあります。どちらが合うか親子で考えておきましょう。自分の認識と周囲からの評価にズレがあることも珍しくないので、塾や家庭教師の意見にも耳を傾けたほうがよいです。
自主自立を重んじる学校では、生徒は伸び伸びと過ごせます。その分、補習授業をはじめとするフォローが少ないところが多く、勉強に遅れた場合のリカバリーは難しいです。管理型の学校ではあれこれとやることが決められていてうんざりすることもあるかもしれません。しかし、勉強面でのフォローが手厚い点では安心できます。
入学後の生活を軌道に乗せるためにはどちらが向いているのか、考えておきましょう。偏差値だけで学校選びをすると校風の合わない学校だと入ってから気付くはめになり、理想と現実のすれ違いから心を挫かれがちです。
春休み中も学習習慣を崩さない
春休み中にも勉強は続けましょう。受験勉強のように終日没頭する必要はありません。ただ、勉強を休止する期間を長く設けると、せっかく身に着いた学習習慣が抜け落ちてしまいます。受験後から春休み中は、学習を先取りするための期間だと認識しましょう。この期間に予習をいかに進めたかによって、今後の生活が変わってきます。
英語と数学を先取りで勉強しておく
英語と数学は、中学校に入ってついていけなくなる子供の多い教科です。英語は小学校までとは違い、正しい文法で読み書きできなければなりません。数学のカリキュラムは難しくハイペースです。この2教科は入学前にがっつりと先取りをしておきたいところ。それだけで、私立中学校での勉強が驚くほど軌道に乗りやすくなります。
英語は出だしでつまずくと、手も足も出ない教科です。たとえば、「大文字小文字をマスターしていない」「単数形と複数形の書き分けができない」「三単現のSがわからない」といった子供は、単元ごとの文法を理解できたところで、満点の答案は書けません。減点されない答案を書くのは大変な作業です。見直しのポイントを押さえて、一問一問じっくりと解く姿勢が求められます。一朝一夕で身に着くものではないので、入学前に時間をかけてトレーニングしておきましょう。
数学は学習速度についていけない子供が多いです。一学期分を先取りするぐらいの気持ちで春休みまでに勉強を進めておくことをおすすめします。
通学時間が長い場合、その時間をどう活用するか考えよう
私立中学に通学するにあたり、ひとつのネックとなるのが通学時間です。有名中学であればあるほど、片道1~2時間かけての通学は当たり前。たとえば、片道2時間なら往復4時間の計算ですから、学校以外の自由時間の多くを公共交通機関の中で費やす生活を送らざるを得ません。
睡眠時間をちゃんと確保するためにも、通学時間をどういう風に使うか、考える必要があります。たとえば、暗記カードを持ち込んで勉強したり、アプリで復習したりといった具合です。さすがに問題集やノートを大々的に広げての勉強は難しい場合が多いですから、なるべく手元だけで済む内容を選びます。通学時間に振り回されてなし崩しに就寝時間が遅くなると、次第に通学が億劫になりがちです。生活リズムをキープするためにも、通学時間を最大限に活用しましょう。
進学実績と自分の目指すべき順位を知っておく
たとえば最難関校には各学校のトップクラスの生徒だけが集まります。しかし、当然のことながら学内でテストを受ければ一位も最下位も、その中で決まるわけです。漠然と「上位をとりたい」とだけ考えていると、手痛い思いをするはめになります。
まず、進学実績を見て自分の行きたい大学に進むためには何位ぐらいにいたらよいのかを知っておきましょう。その順位こそテストの際に目標とする順位です。目標を実現するため勉強を頑張りましょう。
もしわが子が燃え尽き症候群になってしまったら
中学受験後、燃え尽き症候群になってしまったらどうすればよいのでしょうか。
叱りつける前に専門機関に相談してみよう
子供がダラダラしている姿を見ると親はつい腹が立ってきてしまいます。「どうしてあんたはちゃんとしないの!」「もっと勉強しなさいよ!」と頭ごなしに叱りつけたくもなるでしょう。しかし、子供だって好きでダラダラしているとは限りません。余計にストレスをため込んで苦しんでいるかもしれないのです。疲弊した心に思いきり怒りをぶつけてしまっては、ますます子供を追い込んでしまう可能性もあります。まずは心療内科などで専門家のアドバイスをあおいでみるのがよいでしょう。
塾や家庭教師にアドバイスを求めよう
子供の学習習慣が確立せず、状況を改善するための手段もわからないとなると、親としてはイライラが募るのも当然です。ここは一度お世話になった塾講師や家庭教師にアドバイスを求めてみましょう。
経験豊富な先生であれば、勉強の仕方や中学生活をどう軌道に乗せていけばよいのかを具体的に教えてくれるはずです。遠慮する必要はありません。多くの塾講師や家庭教師にとって自分の教え子は大切な存在ですから、親身になってアドバイスしてくれるでしょう。
それに、教え子から得られる学校の情報は、塾講師や家庭教師にとって貴重なものです。ぜひ連絡をとってみてください。
タイムロスをなるべく削減した生活をしよう
地元の学校ならともかく、離れている私立中学に通うだけでも新中学一年生にとっては大きな負担です。通学以外でのタイムロスはなるべく減らしてあげるのがよいでしょう。
塾に通っているのが、本人にとって息抜きになるならよいですが、移動が辛そうなら映像授業に切り替えて、自宅で受けさせるという手もあります。もしくは、塾から家庭教師に切り替えて、帰宅したら間を空けずに授業を受けられるよう環境を整えるのもよいでしょう。
早いうちに入学後のための対策を打とう
受験後、燃え尽き症候群にならないための対策は、早いうちに考えておきましょう。そうはいっても、親子ともに長い時間をかけて受験に取り組んできたのですから、ひと息つきたくなるのは当然のことです。今まで我慢していた旅行に行くのもよいですし、好きな本を読んだりゲームをしたりするのもよいでしょう。
大切なのは、休みっぱなしにならないことです。意識的にメリハリをつけてください。学習習慣をキープし、今後の新生活の中でどうリズムを作っていくかを模索しながら、予習を進めていきます。
英語と数学は出遅れると取り戻すのがかなり大変なので、先取り学習を進めるようにしましょう。一学期分先取りできるとかなりゆとりが生まれます。それでも、燃え尽き症候群に陥ってしまった場合は、専門家のアドバイスを受けて対応していくことをおすすめします。